可処分所得とキャッシュフロー表
ファイナンシャル・プランニングの第3ステップ「ファイナンス状態の分析・評価」では、顧客の家計を定量的に把握するための3つの基本ツールを使います。ライフイベント表・キャッシュフロー表・個人バランスシートの3点セットです。
これらの土台になるのが可処分所得という考え方です。年収のうち「自由に使える手取り部分」がいくらかを正しく出さないと、キャッシュフロー表の収入欄が現実と合いません。FP3級の学科試験では、可処分所得の計算式と3つの表の使い分けが繰り返し出題されます。この章で確実に得点源にしましょう。
可処分所得 ── 「年収」と「手取り」の違い
Section titled “可処分所得 ── 「年収」と「手取り」の違い”可処分所得とは、年収(額面)から所得税・住民税・社会保険料を差し引いた残額のことです。「家計が自由に使えるお金」を指し、キャッシュフロー表における収入として計上されます。
ここで重要なのは、何を差し引いて何を差し引かないかの線引きです。
| 項目 | 可処分所得計算で差し引く? | 理由 |
|---|---|---|
| 所得税 | 差し引く | 国に強制的に納める税金 |
| 住民税 | 差し引く | 地方自治体に強制的に納める税金 |
| 社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険等) | 差し引く | 法令で義務づけられた強制保険料 |
| 生命保険料・損害保険料 | 差し引かない | 任意加入であり「自由意思での支出」 |
| 住宅ローン返済額 | 差し引かない | 任意の借入返済 |
| 財形貯蓄 | 差し引かない | 任意の貯蓄行為 |
| iDeCo(個人型確定拠出年金)掛金 | 差し引かない | 任意加入の私的年金 |
差し引くか差し引かないかの判定基準は、「強制的に納めるもの(税金・社会保険料)か、任意の支出か」です。生命保険料・住宅ローン返済・財形貯蓄・iDeCoは、いずれも本人の選択で行う支出なので、可処分所得の計算では差し引きません。
試験で出るポイント
「可処分所得を計算するうえで生命保険料を差し引く」は誤りの典型パターン(2023年9月・2025年5月などで出題)。生命保険料・住宅ローン・財形・iDeCoはすべて差し引かない。差し引くのは所得税・住民税・社会保険料の3つだけと覚えれば一発判定できます。
数値例で確認する
Section titled “数値例で確認する”具体的な数値で計算してみましょう。
例:会社員のAさんの家計
- 年収(額面): 500万円
- 所得税: 15万円
- 住民税: 20万円
- 社会保険料: 70万円
- 生命保険料: 12万円
- 住宅ローン返済額: 100万円
可処分所得 = 500万円 - (15万円 + 20万円 + 70万円) = 395万円
生命保険料12万円・住宅ローン返済100万円は控除対象外なので、引き算には含めません。Aさんが自由に使えるお金は395万円であり、ここから生命保険料・住宅ローン・生活費などの任意支出を支払う、という捉え方になります。
ライフイベント表 ── 家族の予定を時系列で並べる
Section titled “ライフイベント表 ── 家族の予定を時系列で並べる”ライフイベント表は、家族構成員ごとにいつ何が起きるかを時系列に並べた表です。結婚・出産・子供の進学・住宅購入・退職など、お金が大きく動くイベントを一覧化することで、後のキャッシュフロー表で必要な支出を埋めていく土台になります。
| 経過年数 | 西暦 | 父(45) | 母(43) | 長男(10) | 長女(7) | 主なイベント・支出 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 現在 | 2026 | 45歳 | 43歳 | 10歳(小4) | 7歳(小1) | ─ |
| 2年後 | 2028 | 47歳 | 45歳 | 12歳(小6) | 9歳(小3) | 住宅購入:頭金500万円 |
| 5年後 | 2031 | 50歳 | 48歳 | 15歳(中3) | 12歳(小6) | 長男 高校入学:50万円 |
| 8年後 | 2034 | 53歳 | 51歳 | 18歳(高3) | 15歳(中3) | 長男 大学入学:100万円 |
| 11年後 | 2037 | 56歳 | 54歳 | 21歳(大4) | 18歳(高3) | 長女 大学入学:100万円 |
| 15年後 | 2041 | 60歳 | 58歳 | 25歳 | 22歳 | 父 定年退職 |
ライフイベント表の特徴は、金額の正確さよりも「いつ起きるか」の見通しを立てることに重点があることです。教育費・住宅購入頭金・退職などのまとまった支出を時系列で見える化することで、対策の必要時期がはっきりします。
キャッシュフロー表 ── 年次の収支と貯蓄残高
Section titled “キャッシュフロー表 ── 年次の収支と貯蓄残高”キャッシュフロー表は、ライフイベント表をもとに、年次の収入・支出・年間収支・貯蓄残高を将来にわたって試算する表です。「今のままの家計で続けていったら、貯蓄は持つのか」を定量的に検証するのが目的です。
| 経過年数 | 西暦 | 父年齢 | 給与収入 | その他収入 | 収入合計 | 基本生活費 | 住居費 | 教育費 | 保険料 | その他支出 | 支出合計 | 年間収支 | 貯蓄残高 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 現在 | 2026 | 45 | 395 | 0 | 395 | 200 | 120 | 50 | 30 | 20 | 420 | -25 | 500 |
| 1年後 | 2027 | 46 | 399 | 0 | 399 | 202 | 120 | 50 | 30 | 20 | 422 | -23 | 482 |
| 2年後 | 2028 | 47 | 403 | 0 | 403 | 204 | 120 | 60 | 30 | 520 | 934 | -531 | -45 |
(金額単位:万円。基本生活費は変動率1%で増加、収入は1%昇給を想定。2028年に住宅購入の頭金500万円を計上)
キャッシュフロー表で覚えるべき4つのルール
Section titled “キャッシュフロー表で覚えるべき4つのルール”- 収入欄には可処分所得を計上する。額面年収ではない。
- 収入・支出には変動率(インフレ率・昇給率)を反映する。物価上昇や給与昇給を年率で見込む。
- 年間収支 = 収入合計 − 支出合計。マイナスなら貯蓄を取り崩している。
- 貯蓄残高 = 前年の貯蓄残高 ×(1 + 運用利率)+ 当年の年間収支。運用利率も反映する。
変動率の計算
Section titled “変動率の計算”n年後の金額は、現在の金額に**(1 + 変動率)のn乗**を掛けて求めます。
例:基本生活費が現在200万円・変動率(インフレ率)1%の場合、5年後の基本生活費は 200万円 × (1 + 0.01)5 ≒ 200万円 × 1.051 = 約210万円
試験で出るポイント
キャッシュフロー表の収入欄に額面年収を書く選択肢は誤り。可処分所得を書きます。また、変動率は**(1+r)n** の累乗計算で反映するため、5年で5倍ではなく約1.05倍(1%の場合)になる点も押さえましょう。
個人バランスシート ── ある時点の資産・負債・純資産
Section titled “個人バランスシート ── ある時点の資産・負債・純資産”個人バランスシート(個人B/S)は、ある時点における資産・負債・純資産を一覧にしたものです。キャッシュフロー表が「期間の収支」を見るのに対し、個人B/Sは「現時点の財産状態」を見るための写真のような表です。
| 資産(左側) | 金額 | 負債(右側) | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 500 | 住宅ローン残高 | 2,500 |
| 株式・投資信託(時価) | 300 | 自動車ローン残高 | 50 |
| 生命保険 解約返戻金(時価) | 150 | 負債合計 | 2,550 |
| 自宅(時価) | 3,000 | 純資産 | 1,400 |
| 自動車(時価) | 100 | ─ | ─ |
| 資産合計 | 3,950 | 負債+純資産合計 | 3,950 |
(金額単位:万円)
個人B/Sで覚えるべき3つのルール
Section titled “個人B/Sで覚えるべき3つのルール”- 資産は時価で計上する。簿価(買ったときの値段)ではない。自宅の時価・株式の現在価格・解約返戻金の現在額を使う。
- 負債は残高で計上する。住宅ローンならローン残高、自動車ローンなら残債。
- 純資産 = 資産合計 − 負債合計。プラスなら実質的に資産超過、マイナスなら債務超過。
試験で出るポイント
個人バランスシートの資産は時価で計上します。「取得時の価格(簿価)で計上する」という選択肢は誤り。とくに株式・投資信託・自宅の評価額は、現時点の市場価格を使う点を押さえましょう。生命保険は解約返戻金の額で計上します(保険金額ではありません)。
3つの表の使い分け
Section titled “3つの表の使い分け”3つのツールは、それぞれ役割が違います。最後に対比表で整理しておきましょう。
| ツール | 何を見る | 軸 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ライフイベント表 | 家族の予定 | 時系列 | 大きな支出の時期を見える化する |
| キャッシュフロー表 | 年次の収支と貯蓄残高 | 時系列 | 将来の家計が成り立つかを検証する |
| 個人バランスシート | 現時点の資産・負債・純資産 | 一時点 | 現時点での財産状態(資産超過か債務超過か)を見る |
graph LR
A[ライフイベント表<br/>家族の予定を並べる] --> B[キャッシュフロー表<br/>年次の収支・貯蓄残高]
A --> C[個人バランスシート<br/>現時点の資産・負債]
B --> D[現状の問題点を分析]
C --> D
D --> E[プランの作成・提示]
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よくあるひっかけパターン
Section titled “よくあるひっかけパターン”- 「可処分所得は年収から生命保険料も差し引く」── 誤り。差し引くのは所得税・住民税・社会保険料の3つだけ。
- 「キャッシュフロー表の収入欄に額面年収を書く」── 誤り。可処分所得を書く。
- 「個人B/Sの資産は取得価額(簿価)で計上する」── 誤り。時価で計上する。
- 「住宅ローン返済額は可処分所得計算で差し引く」── 誤り。任意の借入返済なので差し引かない。
試験で出るポイント(総まとめ)
Section titled “試験で出るポイント(総まとめ)”試験で出るポイント
- 可処分所得 = 年収 −(所得税 + 住民税 + 社会保険料)。生命保険料・住宅ローン・財形・iDeCoは差し引かない。
- キャッシュフロー表の収入欄は可処分所得で記入。
- 変動率(インフレ率・昇給率)は**(1+r)のn乗**で反映する。
- 個人バランスシートは時価で資産計上、負債は残高で計上、純資産=資産−負債。
- 3つのツールはそれぞれ**家族の予定(ライフイベント表)/年次の収支(キャッシュフロー表)/一時点の財産状態(個人B/S)**を見るためのもの。
会社員のBさんの年収は600万円、所得税は20万円、住民税は30万円、社会保険料は90万円、生命保険料は15万円、住宅ローンの年間返済額は120万円である。Bさんの可処分所得の額として、正しいものはどれか。
① 460万円 ② 445万円 ③ 325万円
解答
正解:①
可処分所得=年収 −(所得税 + 住民税 + 社会保険料)= 600 − (20 + 30 + 90) = 460万円。生命保険料15万円・住宅ローン返済120万円は任意の支出であり、可処分所得の計算では差し引かない。②は生命保険料を、③は住宅ローン返済を誤って差し引いた値。
可処分所得を計算する際には、年収から所得税・住民税・社会保険料に加えて、生命保険料控除の対象となる生命保険料も差し引いて求める。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:×
可処分所得の計算で差し引くのは所得税・住民税・社会保険料の3つのみである。生命保険料は本人の任意加入によるものであり、生命保険料控除の対象になるかどうかにかかわらず、可処分所得計算では差し引かない。
キャッシュフロー表を作成するにあたっては、収入欄には額面の年収(給与の総支給額)を記入し、支出欄に所得税・住民税・社会保険料・生命保険料を含めて計上するのが一般的である。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:×
キャッシュフロー表の収入欄には可処分所得(年収から所得税・住民税・社会保険料を差し引いた額)を計上するのが一般的である。額面年収を計上する方式ではない。なお、生命保険料は支出欄に計上するのが通常である。
キャッシュフロー表における基本生活費は、変動率(インフレ率)が年1%の場合、現在の額に1.01のn乗を掛けてn年後の金額を試算する。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
n年後の金額は 現在の金額 ×(1 + 変動率)n で計算する。変動率1%・5年後なら 1.015 ≒ 1.051 を掛ける。「1+r×n」のような単純な掛け算ではなく、累乗で計算する点に注意。
個人バランスシートを作成する際の資産・負債の計上方法に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
① 自宅は取得時の価格(簿価)で計上し、住宅ローンは借入当初の金額で計上する。 ② 自宅は現時点の時価で計上し、住宅ローンは現時点の残高で計上する。 ③ 株式・投資信託は取得時の価格、生命保険は契約時の保険金額で計上する。
解答
正解:②
個人バランスシートの資産は時価、負債は現時点の残高で計上するのが原則である。自宅は購入時ではなく現時点の市場価格、株式・投資信託も時価、生命保険は解約返戻金の額を使う。①と③はいずれも取得時の価格を使う点で誤り。
個人バランスシートの「純資産」は、資産合計から負債合計を差し引いて求めるが、その値がマイナスになった場合は債務超過の状態にある。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
純資産 = 資産合計 − 負債合計。プラスなら実質的に資産超過、マイナスなら債務超過(持っている資産すべてを売っても負債を返しきれない状態)である。住宅ローンを多く抱える時期は資産超過でも純資産が小さくなりがちで、ライフプラン上のリスク評価に役立つ。