投資信託の分配金の課税
投資信託(追加型株式投資信託)を保有していると、運用成果に応じて分配金を受け取ることがあります。「分配金が出た=ファンドが儲かった」とは限らない、というのがこの分野最大のポイントです。実は分配金は、運用益から払われる部分と、自分が払い込んだ元本から戻ってくる部分の2つに分けて課税されます。
FP3級では、この区分を計算で求めさせる出題がほぼ毎回登場します。本章では、根拠となる所得税法の課税区分を踏まえつつ、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の違い、個別元本と基準価額の関係を、具体的な数値例で整理していきます。
基準価額と個別元本 ── 2つの「価額」を区別する
Section titled “基準価額と個別元本 ── 2つの「価額」を区別する”分配金の課税を理解する前に、投資信託で出てくる2つの重要な価額を区別しましょう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 基準価額 | ファンドの1万口あたりの純資産額。市場価格に相当し、毎日の運用結果で変動する |
| 個別元本 | 各投資家ごとの購入時の基準価額(追加購入や分配で調整される) |
基準価額はファンド全体の値段で、すべての投資家に共通する数値です。一方、個別元本は「あなたがいくらで買ったか」という投資家ごとの購入価額で、税金計算の基礎になります。あとから追加で購入したり、後述する元本払戻金を受け取ると、個別元本は調整されます。
たとえば、同じファンドでも、Aさんが10,000円で買い、Bさんが12,000円で買えば、Aさんの個別元本は10,000円、Bさんの個別元本は12,000円です。同じ分配金が出ても、AさんとBさんで課税のされ方が変わってくるのは、この個別元本の違いに理由があります。
普通分配金と元本払戻金 ── 同じ分配金が2つに分かれる
Section titled “普通分配金と元本払戻金 ── 同じ分配金が2つに分かれる”分配金は、税金の世界では次の2つに区分されます。
| 区分 | 性格 | 課税 |
|---|---|---|
| 普通分配金 | 運用で得た利益から支払われる部分 | 課税(20.315%の源泉徴収) |
| 元本払戻金(特別分配金) | 自分の払い込んだ元本が戻ってくる部分 | 非課税(個別元本を引き下げ) |
普通分配金は運用で生じた利益の払い戻しなので、利子・配当などと同様に課税されます。税率は**所得税15.315%+住民税5%=合計20.315%**で、源泉徴収されます(復興特別所得税0.315%を含む)。
一方、元本払戻金(旧称「特別分配金」)は、運用で利益が出ていない分について自分の出した元本が戻ってきているだけなので、非課税です。そのかわり、戻ってきた金額分だけ個別元本が引き下げられます。次回以降、その引き下げ後の個別元本を基準にして、また普通分配金と元本払戻金が判定されます。
試験で出るポイント
「元本払戻金は非課税だから普通分配金より得だ」と感じるのは 誤解 です。元本払戻金は「自分の元本が戻ってきただけ」なので、非課税なのは当然であり、ファンドが儲かっているわけではありません。むしろ運用が振るわなかったサインとも読めます。
区分の判定手順 ── 分配落ち後基準価額と個別元本を比べる
Section titled “区分の判定手順 ── 分配落ち後基準価額と個別元本を比べる”普通分配金と元本払戻金の区分は、次の3ステップで機械的に求められます。分配落ち後基準価額(分配金を払った直後の基準価額)と、自分の個別元本を比べるのがポイントです。
ステップ1:分配前基準価額を計算
Section titled “ステップ1:分配前基準価額を計算”分配前基準価額 = 分配落ち後基準価額 + 分配金分配金が支払われると、その金額だけ基準価額は下がります(これを分配落ちといいます)。逆に言えば、分配落ち後の基準価額に分配金を足し戻したものが分配前基準価額です。
ステップ2:普通分配金を計算
Section titled “ステップ2:普通分配金を計算”普通分配金 = 分配前基準価額 − 個別元本(マイナスになる場合は 0)分配前の基準価額が個別元本を超えている部分は、運用益として実現された利益と見なされます。これが普通分配金です。分配前基準価額が個別元本を下回っている場合は、運用益は出ていないので普通分配金は0となります。
ステップ3:元本払戻金を計算
Section titled “ステップ3:元本払戻金を計算”元本払戻金(特別分配金) = 分配金 − 普通分配金分配金のうち、普通分配金にならなかった残りはすべて元本払戻金です。受け取った元本払戻金の金額分、個別元本が引き下げられ、新しい個別元本となります。
数値例で確認 ── 同じファンドでも投資家ごとに課税が違う
Section titled “数値例で確認 ── 同じファンドでも投資家ごとに課税が違う”具体例で計算してみましょう。あるファンドが分配金300円を支払い、分配前の基準価額が10,500円、分配落ち後の基準価額が10,200円だったとします。このとき、購入価額(個別元本)が異なる2人の投資家を比べます。
Aさん:個別元本 10,000円 Bさん:個別元本 10,400円
Aさんのケース
Section titled “Aさんのケース”- 分配前基準価額 10,500円 − 個別元本 10,000円 = 500円
- 分配金は300円なので、全額300円が普通分配金(500円 > 300円のため、分配金全部が運用益でカバーされている)
- 元本払戻金:0円
- 個別元本は変化なし(10,000円のまま)
- 課税対象:300円 × 20.315% ≒ 約61円が源泉徴収
Bさんのケース
Section titled “Bさんのケース”- 分配前基準価額 10,500円 − 個別元本 10,400円 = 100円
- 普通分配金:100円(運用益で説明できる部分)
- 元本払戻金:分配金300円 − 普通分配金100円 = 200円
- 個別元本:10,400円 − 200円 = 10,200円(200円分引き下げ)
- 課税対象:100円 × 20.315% ≒ 約20円が源泉徴収
同じ300円の分配金でも、個別元本が高い投資家ほど元本払戻金の比率が高くなり、課税される金額は小さくなります。これは、高値で買った投資家にとっての「分配金」は、まだ自分の元本も回収できていない段階での払い戻しだからです。
graph TB
A[分配金 300円] --> B{分配前基準価額<br/>10,500円<br/>vs 個別元本}
B -->|個別元本 10,000円<br/>Aさん| C[普通分配金 300円<br/>課税対象]
B -->|個別元本 10,400円<br/>Bさん| D[普通分配金 100円<br/>課税]
B -->|個別元本 10,400円<br/>Bさん| E[元本払戻金 200円<br/>非課税・個別元本を10,200円に引下げ]
classDef base fill:#f8fafc,stroke:#94a3b8,stroke-width:1px,color:#333;
classDef primary fill:#eff6ff,stroke:#2563eb,stroke-width:2px,color:#1e40af;
classDef alert fill:#fef2f2,stroke:#dc2626,stroke-width:2px,color:#991b1b;
分配落ち後基準価額が個別元本を下回るケース
Section titled “分配落ち後基準価額が個別元本を下回るケース”もう一つ重要なパターンがあります。分配落ち後の基準価額が個別元本を下回るケースです。
たとえば、分配金500円、分配落ち後基準価額9,800円、個別元本10,000円のCさんを考えます。
- 分配前基準価額:9,800 + 500 = 10,300円
- 普通分配金:10,300円 − 10,000円 = 300円
- 元本払戻金:500円 − 300円 = 200円
- 個別元本:10,000円 − 200円 = 9,800円
このケースでは、分配落ち後基準価額(9,800円)が個別元本(10,000円)を下回っているため、その差額にあたる200円が元本払戻金として処理され、個別元本も新しい基準価額と同じ9,800円まで引き下げられます。
試験で出るポイント
「分配落ち後基準価額が個別元本を下回るときは、分配金の全額が普通分配金になる」という選択肢は 誤り です。下回った差額分が元本払戻金として扱われ、個別元本も引き下げられます。「ステップ2でマイナスにならないか」「ステップ3で残りを元本払戻金に振り分け」という機械的な処理を覚えれば迷いません。
試験で出るポイント(総まとめ)
Section titled “試験で出るポイント(総まとめ)”試験で出るポイント
- 分配金は 普通分配金(課税・20.315%源泉徴収) と 元本払戻金(特別分配金・非課税) に分かれる。
- 計算は3ステップ:①分配前基準価額=分配落ち後+分配金 → ②普通分配金=分配前基準価額−個別元本(マイナスは0) → ③元本払戻金=分配金−普通分配金。
- 元本払戻金は 個別元本を同額分引き下げる。
- 「非課税=得」ではない。元本払戻金は自分の元本が戻ってきただけ。
- 分配落ち後基準価額が個別元本を下回るときは、その差額が元本払戻金になる(全額が普通分配金にはならない)。
追加型株式投資信託の収益分配金に関する次の記述の正誤を判定せよ。
普通分配金は元本の払戻しに該当する部分であるため非課税であり、元本払戻金は運用益の分配に該当するため課税対象となる。
解答
正解:×
説明が逆である。普通分配金は運用で得た利益部分の分配であり課税対象(20.315%の源泉徴収)。元本払戻金(特別分配金)は自分の元本が戻ってきた部分の払戻しであり非課税で、戻った金額分だけ個別元本が引き下げられる。
ある追加型株式投資信託の決算において、分配落ち後基準価額が10,200円、分配金が300円であった。この投資信託をX氏は10,000円(個別元本)で購入していた。X氏が受け取る分配金の取扱いに関する次の記述の正誤を判定せよ。
X氏が受け取る分配金300円は、全額が普通分配金として課税対象となる。
解答
正解:○
分配前基準価額=10,200円+300円=10,500円。普通分配金=10,500円−個別元本10,000円=500円だが、分配金は300円が上限なので全額300円が普通分配金となる。元本払戻金は0円、個別元本は10,000円のまま変わらない。
ある追加型株式投資信託の決算において、分配落ち後基準価額が10,200円、分配金が300円であった。この投資信託をY氏は10,400円(個別元本)で購入していた。Y氏が受け取る分配金の課税関係に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
① 分配金300円のうち、普通分配金は100円、元本払戻金は200円であり、Y氏の個別元本は10,200円に引き下げられる。 ② 分配金300円は全額が普通分配金として課税対象となる。 ③ 分配金300円は全額が元本払戻金として非課税となる。
解答
正解:①
分配前基準価額=10,200円+300円=10,500円。普通分配金=10,500円−個別元本10,400円=100円。元本払戻金=分配金300円−普通分配金100円=200円。個別元本は10,400円−200円=10,200円に引き下げられる。よって①が正しい。
追加型株式投資信託の収益分配金に関する次の記述の正誤を判定せよ。
元本払戻金(特別分配金)を受け取った場合、その金額分だけ個別元本は引き下げられ、次回以降の分配金の課税区分は新しい個別元本を基準に判定される。
解答
正解:○
元本払戻金は自分の元本の払戻しであるため非課税となるかわりに、受け取った金額分だけ個別元本が引き下げられる。引き下げ後の個別元本は次回以降の分配金区分の判定基準となるため、長期保有で何度も元本払戻金を受け取ると個別元本がどんどん下がっていくこともある。
ある追加型株式投資信託の決算において、分配落ち後基準価額が9,800円、分配金が500円であった。この投資信託をZ氏は10,000円(個別元本)で購入していた。Z氏が受け取る分配金の取扱いに関する次の記述の正誤を判定せよ。
分配落ち後基準価額が個別元本を下回っているため、Z氏が受け取る分配金500円は全額が普通分配金として課税対象となる。
解答
正解:×
分配前基準価額=9,800円+500円=10,300円。普通分配金=10,300円−10,000円=300円、元本払戻金=500円−300円=200円となる。分配落ち後基準価額(9,800円)が個別元本(10,000円)を下回る差額分(200円)が元本払戻金となり、個別元本も9,800円に引き下げられる。「全額が普通分配金になる」は誤り。
追加型株式投資信託の収益分配金に関する次の記述の正誤を判定せよ。
普通分配金には所得税および復興特別所得税と住民税を合わせて20.315%が源泉徴収される。
解答
正解:○
普通分配金は配当所得として、所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%の合計**20.315%**が源泉徴収される。NISA口座で受け取った場合は非課税となるが、特定口座・一般口座では原則として源泉徴収される。一方、元本払戻金は元本の払戻しに過ぎないため非課税で源泉徴収もされない。